UNDERGROUND TOKYO
渋谷駅の地下に、今も「川」が流れている。

裏歴史

渋谷駅の地下に、今も「川」が流れている。

東京・渋谷。スクランブル交差点、巨大なビル、地下鉄、地下通路――毎日、何十万人もの人間が行き交うこの街には、もう一つの渋谷がある。地上からは見えない、「水の渋谷」だ。

渋谷という街を歩いていると、奇妙なことに気づく。道玄坂、宮益坂、スペイン坂、間坂。この街には、やたらと坂が多い。そして多くの坂を下っていくと、渋谷駅周辺へたどり着く。なぜなのか。答えは単純だ。渋谷は「谷」だからだ。そして谷の底には、水が集まる。

渋谷には川がある

その川の名前は渋谷川。都市伝説ではなく、現在も存在する本物の川だ。渋谷駅から少し南へ歩き、渋谷ストリーム付近まで行けば、実際にその姿を見ることができる。では奇妙な疑問が残る。川があるなら、渋谷駅より北側の水はどこから来るのか。現在の地図で渋谷川を上流へ辿ると、あるところで川が消える。

川が突然、地図から消える

渋谷川の上流部には、かつて地上を流れていた水路があった。その一つが穏田川。現在の渋谷から原宿方面、さらに北へ――かつてそこには水が流れていた。しかし現在、その場所を歩いても川は見えない。あるのは道路、店、住宅、遊歩道。普通の東京だ。川は、どこへ行ったのか。

「暗渠」

東京には、地図から消えた川が大量にある。正確には、川そのものが突然消滅したわけではない。水路の上を覆い、地下へ通し、下水道として利用する。そしてその上に道路や街を作る。こうして地上から見えなくなった水路は、一般に「暗渠」と呼ばれる。つまり東京では、道路だと思って歩いている場所の下に、かつての川の流れが残っていることがある。

原宿と渋谷を結ぶキャットストリートは、現在はファッションショップやカフェが並ぶ、東京でも有名な通りの一つだ。しかしこの道を古い地図と重ねると、まったく違うものが現れる――川。かつてこの場所には穏田川が流れていた。現在、川を見ることはできない。だが道を上から見ると分かる。真っ直ぐではなく、微妙に曲がり、細長く続く。道路として考えると少し不自然な形をしている。しかし「ここは川だった」と考えた瞬間、その形が突然理解できる。道路が曲がっているのではない。川の形が、道路として残っているのだ。

消されたのは「水」ではない

川を暗渠にしても、地形そのものが消えるわけではない。谷は谷のままだ。水は低い場所へ集まる。人間が地図を書き換えても、自然の地形まで完全に書き換えることはできない。だから東京から川が消えた後にも、痕跡が残る。不自然に曲がる道路。細長い公園。周囲より低い土地。「橋」という文字を持つ地名。そして、何もない場所に残された橋の跡。川そのものは見えない。しかし川が作った街の形だけは、残っている。

渋谷駅は谷底にある

現在の渋谷駅は非常に複雑だ。地下鉄、JR、私鉄、地下通路、商業施設。何層もの人工物が上下に重なり、「渋谷ダンジョン」と呼ばれることすらある。その理由の一つは、この土地の地形にある。渋谷駅は谷底に近い。そこに鉄道を通し、地下鉄を通し、道路を造り、巨大なビルを建てた。さらに、もともと存在した水の流れを処理しなければならない。つまり現在の渋谷は、何もない平地に作られた都市ではなく、古い谷と川の上に、巨大な人工都市を何層も重ねて作った街なのだ。

私たちが渋谷を歩くとき、見えているのは一番新しい層だけだ。スクランブル交差点、渋谷スクランブルスクエア、渋谷ストリーム、宮下公園。しかしその下には、昔の道路、昔の町、昔の地形、そして水――過去の東京がある。東京は、古い都市を完全に消してから新しい都市を作ったわけではない。古いものの上に、新しいものを重ねてきた。だから地下を調べると、昔の東京が突然現れる。

一度消した川を、再び見せる

近年、渋谷では興味深いことが起きた。再開発によって、渋谷川が再び街の表側へ出てきたのだ。渋谷ストリーム周辺の川沿いには遊歩道が整備され、人々が歩き、店が並び、水辺が街の景観として利用されている。かつて都市化の中で見えなくなっていった水を、今度は東京が街の価値として見せ始めた。東京は川を隠し、そして数十年後、今度は川を探し始めた。

それでも渋谷川を北へ辿ると、再び水は見えなくなる。そこから先は普通の東京だ。道路、店、マンション。歩いている人のほとんどは、自分の足元にかつて川が流れていたことなど知らない。だが古地図を一枚持って歩くと、街の見え方が変わる。「なぜ、この道だけ曲がっているのか」「なぜ、ここだけ低いのか」「なぜ、こんなところに橋の名前が残っているのか」――その答えが、一つずつ見えてくる。

東京には、もう一枚の地図がある

私たちが普段見る東京の地図には、道路、駅、ビル、公園、店が描かれている。しかし100年前の地図を重ねると、そこに別の線が現れる。川、水路、池、橋――現在の地図から消えた、大量の「水」。つまり東京には、普段私たちが見ている地図とは別に、もう一枚の地図がある。「水の地図」だ。そしてその地図は今も、現在の東京の形を決め続けている。

東京では、建物は消える。町名も消える。道路も変わる。しかし水は少し違う。人間が見えなくすることはできる。蓋をすることもできる。地下へ通すこともできる。だが、水が低い場所へ向かうという性質そのものは変えられない。渋谷を歩いているとき、私たちが見ているのは最新の東京だ。しかしその足元には、別の東京がある。道路になる前、ビルが建つ前、原宿がファッションの街になる前、まだ川が空を見ながら流れていた東京。

川は消えた。そう見える。だが――消えたのは、川ではないのかもしれない。私たちが、その上に東京を作り、見えなくしてしまっただけなのだ。