UNDERGROUND TOKYO
東京には、「誰も住んでいない一等地」がある。

珍スポット

東京には、「誰も住んでいない一等地」がある。

東京・港区、渋谷区、目黒区、世田谷区。土地を探せば、驚くような値段が並ぶ。数億円の住宅、数十億円のマンション。わずかな土地ですら、普通の人には簡単に手が届かない。土地が足りない、家が高い――そんな東京で、時々、理解しにくい光景に出会う。誰も住んでいない家。伸び切った植物。錆びた門。閉ざされた雨戸。郵便物のないポスト。周囲には新しい高級マンション。その一角だけ、時間が止まっている。なぜ、これほど土地が高い東京で、誰も使わない土地が残っているのか。

「売ればいい」では終わらない

外から見れば、答えは簡単に思える。誰も住んでいないなら売ればいい。土地が数億円になるなら、なおさらだ。しかし不動産は、それほど単純ではない。問題になるのが相続、共有名義、境界、借地、抵当権、再建築、そして所有者そのものが分からない土地。一つの土地に、何十年もの人間関係が積み重なっていることがある。

例えば、親が亡くなり家を子供たちが相続する。その子供が亡くなり、さらに孫が相続する。相続登記が整理されないまま、世代だけが進んでいく。すると一つの土地に、何人もの権利者が存在する状態が生まれることがある。売りたい人、売りたくない人、連絡が取れない人、海外にいる人、そもそも自分が権利を持っていることを知らない人。土地はそこにある。しかし、誰も自由に動かせない。

「所有者不明土地」という社会問題

この問題は都市伝説ではない。日本では、所有者が直ちに判明しなかったり、判明しても連絡がつかなかったりする「所有者不明土地」が社会問題になっている。そのため2024年から、相続登記は義務化された。つまり国が制度そのものを変える必要があるほど、問題が大きくなっていた。東京も例外ではない。

ここが東京の面白いところだ。欲しい人はいる。不動産会社もデベロッパーも、土地を探している。それでも動かない土地がある。なぜか。「値段」の問題ではないからだ。10億円出せる人間がいても、売る権利を持つ人間全員が同意しなければならないケースがある。金があっても、買えない。これは東京の超高級品にも似ている。価値が高いことと、取引できることは同じではない。

境界が分からない、壊すと建て直せない

さらに、古い土地には別の問題がある。境界――どこから、どこまでが自分の土地なのか。現在なら測量された図面があるが、何十年、あるいはそれ以上前から続く土地では、現況と資料が簡単に一致しないこともある。隣の家との境、塀、私道、古い杭。数十センチの違いでも、東京なら大きな金額になり、話し合いが止まる。建物も、そのままになる。

古い家を見て「壊して新築すればいい」と思う。ところが現在と昔では、建築のルールが違う。建物を壊したあと、同じように新しい建物を建てられない土地も存在する――いわゆる再建築の問題だ。特に細い路地、昔からの住宅密集地、道路との接し方に問題がある土地は、建物が存在している間は使えるが、壊すと次が建たない。すると古い建物を、簡単には壊せなくなる。

空き家なのに、壊さない

これにも現実的な事情がある。解体には金がかかる。家の中に大量の荷物が残っていることもある。アスベスト、地下構造物、古い擁壁、隣家との距離、道路の狭さ――巨大都市では「壊すだけ」でも簡単ではない。そして解体した瞬間に、土地の税負担などの条件が変化する場合もある。結果、誰も住んでいない、誰も使っていない、しかし家だけは残る。

「壊せない家」という都市伝説

長期間、誰も入らない家。庭は荒れ、窓は暗く、夜になっても明かりはつかない。周囲の住民も所有者を知らない。すると噂が生まれる。「あの家では昔……」「夜中に人がいる」「なぜか絶対に壊されない」「買おうとすると話がなくなる」。いつの間にか、普通の不動産問題が怪談になる。

東京には「あの家は壊せない」というタイプの話がある。工事を始めると事故が起きる。所有者が次々変わる。昔、何かがあった。だから再開発でもそこだけ残る。こうした話は非常に都市伝説になりやすい。しかし現実を調べると、もっと複雑だ。相続、権利、道路、境界、税、法律、建築――一つでも問題があれば、土地は簡単には動かない。外から見れば「呪われている」。中では、書類が止まっているだけかもしれない。

それでも不気味な場所はある

理屈が分かっても、景色は変わらない。東京の高級住宅街。左右には巨大な新築住宅、防犯カメラ、高級車、綺麗に整備された道路。その間に一軒だけ、昭和の家。植物が門を覆っている。二階の窓、破れたカーテン。人の気配はない。土地価格を考えれば、そこには巨大な資産が眠っている。それなのに、誰も使っていない。このアンバランスさが、東京の空き家を不気味に見せる。

ここには注意が必要だ。外から見て荒れている、電気がついていない――だからといって、勝手に空き家だと判断してはいけない。所有者がいる、管理している、一時的に使用していない。事情はいくらでもある。当然、敷地へ入ることもできない。この街を見る面白さは、侵入することではない。「なぜ、この場所だけ時間が止まって見えるのか」を調べることにある。