UNDERGROUND TOKYO
東京には、金持ちしか知らない「もう一つの店」がある。

珍スポット

東京には、金持ちしか知らない「もう一つの店」がある。

銀座、青山、麻布。東京でも特に高級店が集まる街を歩けば、世界的ブランド、高級時計、宝飾店、百貨店――誰でも知っている店が並んでいる。数百万円の時計、数千万円のジュエリー、高級ブランドのバッグ。金さえあれば誰でも買える、そう思うかもしれない。しかし東京には、普通に店へ行っているだけでは見えない、もう一つの「買い物」が存在する。そこには値札を見ながら商品を選ぶ客はいない。行列もない。人混みもない。場合によっては、商品を買うために客が店へ行く必要すらない。商品が、客のところへやって来る。

百貨店には「もう一つの入口」がある

日本の百貨店には、昔から「外商」という世界がある。一般客は百貨店へ行き、売り場を歩き、商品を見て、値段を見て買う。しかし外商では、この流れが変わる。担当者が顧客につく。欲しいものを聞く。商品を探す。提案する。場合によっては、顧客の自宅や会社まで商品を持っていく。つまり客が商品を探すのではない。「商品を探す人間」が、客についている。

外商サービスの条件は百貨店によって異なる。利用実績、年間購入額、紹介、審査――さまざまな基準がある。単純に「銀行口座に1億円あります」と言えば、すべてのサービスが自動的に使える、という世界ではない。重要なのは、その店との関係だ。何を買ったのか、どのくらい利用しているのか、どんな客なのか、そしてこれからも付き合いが続くのか。一般客が商品を選ばれる側だとすれば、この世界では客もまた、店から見られている。

一般売場に出る前に話が来る

富裕層向けサービスの価値は、単なる割引ではない。むしろ本当に価値があるのは「情報」だ。希少な時計、限定商品、一点物、美術品、入手困難なバッグ、特別なイベント――一般販売が始まる前に、担当者から連絡が来ることがある。「こういうものが入りました」「お好きではないですか」。その時点で一般客は、その商品が存在することすら知らないかもしれない。同じ東京に住んでいても、見えている商品が違うのだ。

高級ブランドにも似た世界がある。普通の客がいる華やかな売り場。しかしその奥、上階、別室で、一般客とは違う空間で接客を受ける顧客がいる――いわゆるVIPルームやプライベートサロンだ。もちろんすべてのブランドが同じ仕組みではなく、利用条件も公開されていない場合がある。だからこそ外からは分かりにくい。同じ建物に入り、同じブランドを見ていても、客によって見える「店」が違う。

なぜ金持ちは、人のいない部屋で買うのか

単に特別扱いされたいから、それだけではない。富裕層にとって非常に高価なものがある。「時間」だ。店に並ぶ。商品を探す。在庫を確認する。何店舗も回る。それ自体がコストになる。だから担当者に任せる。「こういう時計が欲しい」「この作家の作品を探している」「妻へのプレゼントを用意してほしい」。条件を伝え、あとは探してもらう。金で買っているのは商品だけではない。「探す時間」まで買っている。

そしてもう一つ、プライバシーだ。有名企業の経営者、芸能人、スポーツ選手、資産家――彼らが一般客で混雑した売り場で数千万円の商品を買っていたらどうなるか。見られる。話しかけられる。写真を撮られる可能性もある。何を買ったのか知られることもある。だから人のいない場所で買う。予約する。個室へ入る。あるいは商品そのものを持ってきてもらう。人口1400万人規模の巨大都市・東京で「誰にも邪魔されない」ことは、非常に高価なサービスになる。

「顧客」であること自体が資産になる

何年も同じ店を利用し、同じ担当者から買い、ブランドとの関係を作る。すると顧客情報が蓄積されていく。好み、サイズ、所有しているもの、過去に買ったもの、興味を持ちそうなもの。新しい商品が入ると、担当者は考える。「あの人が好きそうだ」。電話が鳴る。一般客が広告を見るより前に、その情報が届くこともある。ここまで来ると、買い物というより、ネットワークに近い。

面白いことに、本当の富裕層ほど街で分かりやすく見えるとは限らない。巨大な紙袋を何個も持って歩く必要がない。商品は届けてもらえる。店に並ぶ必要もない。担当者がいる。人混みの中で商品を選ぶ必要もない。別室がある。だから街からは見えにくい。普通の人が想像する「金持ちの買い物」とは、少し違う。

銀座には「二つの銀座」がある

昼間、銀座中央通りを歩く。高級ブランドが並び、ショーウインドウ、観光客、買い物客――これが私たちが知っている銀座だ。しかし同じ建物の中に、一般客がほとんど見ることのない空間がある。予約された部屋。招待された客。担当者が用意した商品。外から見れば同じ店。中に入ると、違う店。東京には、こういう場所が存在する。

さらに閉じた世界になると、店そのものが見えなくなる。完全予約制、紹介制、会員制、住所非公開――西麻布の世界ともつながってくる。富裕層向けサービスでは「誰でも入れる」ことが必ずしも価値ではない。むしろ誰でも入れない、誰でも知らない、誰でも予約できない。この「閉じていること」自体が、商品になる。

金持ちが買っている、本当の商品

高級時計、宝石、服、美術品――もちろんそれも買っている。しかし一定以上の世界へ行くと、金で買っているものが変わってくる。時間。情報。希少性。人脈。プライバシー。そしてアクセス。「普通なら入れない場所へ入れる」「普通なら買えないものを紹介される」「普通なら会えない人間につながる」。その権利そのものが価値になる。

私たちは、店へ行けば商品には値札が付いていると思っている。10万円、100万円、1000万円。しかし富裕層の世界を調べていくと、値札では測れないものが増えていく。紹介。信用。関係。購入履歴。招待。そして「あなたにだけ案内します」。ここには明確な価格がない。だから、外からは見えない。

銀座を歩き、ショーウインドウを見て「あの時計は高い」「あのバッグは高い」と私たちは考える。しかし本当の境界線は、値札ではないのかもしれない。店の奥にある扉。一般客には届かない連絡。招待状。担当者。そして誰にも見られない部屋。そこから先には、同じ東京に存在しているのに、多くの人には見えない市場がある。東京には、金持ちしか知らない「もう一つの店」がある。そして本当に高価なものほど――ショーウインドウには、置かれていないのかもしれない。